【読書】虫捕る子だけが生き残る/小学館新書/養老孟司/池田清彦/奥本大三郎著

読書

はじめに

解剖学者の養老孟司さん、生物学者の池田清彦さん、仏文学者の奥本大三郎さん。

「虫好き」という共通項を持った三人の学者さんによる対談本。

和気あいあいとした雰囲気の中、ときに冗談も交えながら、知的な会話を繰り広げるお三方が本当に素敵だった。

もし、お子さんや親御さん自身が虫嫌いの場合、タイトルのように「虫捕る子だけが生き残る」なんて言われると不安になるかもしれない。

でも、本書は「虫捕り」に限らず、あらゆる自然体験の重要性を説いた本だと思う。

カンのよさを鍛える

養老 比例という概念は、実はわれわれは、数学で教わる以前に理解しているんですよ。あれは要するに、同じものが、遠くでは小さく見えて、近くでは大きく見えるということでしょ。〈中略〉感覚的には、すでに知っていることなんですよ。その感覚が優れている人を、「カンがいい」と言うわけ。〈中略〉そのカンを磨くには、小さい頃から再代入、再入力を繰り返して、脳をブンブン回さないとダメなんですよ。

奥本 要するに、外へ出て、自然の中で思う存分遊べということですね。

池田 そういう新発見(新種の虫の発見)をしたときでも、どこが別種なのかという細かいことは、そのときはわからない。でも、自分の感覚が「違う」と言っている。家に帰っていろいろ調べて、初めて具体的にどこが違うかがわかるわけ。

奥本 その直感が大事なんですよ。学問をやるときも同じです。どこがどうとか言う前に、とにかく直感で「あっ、違う」と感じる。それまでに、たくさんの個体をよく見ていると、わかるようになるんですね。

我が家では娘が産まれてからずっと、屋外で過ごす時間を大切にしてきた。

野花や雑草が生い茂る河川敷。

さまざまな鳥の声が響き渡る森。

なるべく自然豊かな場所に足繁く通った。

なんとなく、子どもの健全な発達のために必要な気がしてそんな教育方針にしていた。

本書を読んで、自然体験が大切な理由について学者さんたちの見解を知ることができてよかった。

お三方がおっしゃるように、自然体験は学問する能力とも深い関係があるのだと思う。

花まる学習会代表の高濱正伸さんが書いた算数教育の本にも、「幼児期にイメージ力を育てることが大切で、そのためには自然の中で遊ぶのが一番いい」というようなことが書かれていた。

ノーベル賞受賞者には、田舎育ちが多い…という話も聞いたことがある。

やっぱり自然体験と勘の良さって、何か関係があるのではないだろうか。

自然の中に秘められたさまざまな法則を、知識ではなく感覚として吸収しておくことが大切なのかもしれない。

ディテールが見える人間になる

奥本 とにかくまとめたがる、概念化したがるというのは、現代社会の病理です。単純化してカタログデータでまとめてしまう。はずれた部分は、存在しないのと同じなわけ。

養老 つまり、いちばん大切なのは、ディテールが見える、感じられるということなんですよ。概念を作るときに大事なのは、感覚を失わないことなんだ。

養老 何かというと、すぐ個性っていうでしょ。個性教育をとかさ。でも、教育で教えられるのは、むしろ概念のほうなんだよ、社会的に認められた常識と言ってもいいけれど。脳みそが得意なのは概念化です。個性というのは、断然、感覚によって作られる。

養老 教育できるのは概念のほうであって、個性を磨くには外へ出るしかないんだ。当たり前のことですよ。

「個性というのは感覚によって作られる」という言葉に、なるほど…と思った。

誰かと同じ勉強をすれば、頭の中に同じ概念を詰め込むことができる。

だから、それは個性にはなりにくい。

でも、たくさんの経験を通して体に染み付いた感覚は、簡単には真似できないのだろう。

知の出入口を広げる

養老 脳みそを本当に発達させようと思ったら、座学中心の教育なんてありえない。さっきの話で言うと、感覚が入口つまりインプットで、運動は出口つまりアウトプットなんだ。近代教育は、子どもの知の出入口を見事に塞いじゃってる。

養老 今の学校教育は、入力は無理やり詰め込むのに、出力はさせない。なんでも頭でこねくりまわせ、理屈をつけろって教えているだけなんだよね。そんなことをしたら、脳みそは止まっちゃうんですよ。小理屈だけが溜まっちゃう。さっきの用語で言えば、脳の中が概念ばっかりでダブダブ状態になる。そして、ある限界を超えると、暴発しちゃうんです。何をするかというと、誰でもいいからホームから突き落とそうとかね。

我が家の娘は4歳で既に本が好きで、一人で読んでいることがある。

本はまさに概念の世界。

読み聞かせなら、心地よい言葉のリズムを聞いたり親の愛情を感じとったりもできるけど、一人読みにはそれもない。

正直、本好きになってくれて嬉しい気持ちと、こんなに幼い子を概念の世界に漬からせていいものか…と心配になる気持ちが半々。

今後も読書を楽しんでほしいけど、そのぶん自然体験の機会も増やしてうまくバランスを取ることを意識したい。

私は今、地方に住んでいるけど、やはり都会ほど生活環境に概念があふれている。

もちろん、都会でも探せば自然豊かな場所はあるけれど、親が意識しなくても日常的に自然に触れられる田舎より、子どもが概念漬けになるリスクが高い。

その上、受験競争の激化により子どもが机に向かう時間も長くなりがち。

決して都会の子育て環境が悪い…と言いたいのではなく、その分自然体験を大切にする意識を持って、子どもの能力をバランスよく育てていくことが大切なのだと思う。

むしろ田舎の子こそ、勉強に苦手意識を持たないよう、早くから座学の習慣をつけたほうがいいのかもしれない。

おわりに

私は養老孟司さんが好きで、その他の著書も何冊か持っていて、YouTubeで公式チャンネルや講演会動画などもよく見ている。

とある動画で、養老さんは「関心事のすべてが人間関係になると、そこがうまくいかないときに苦しくなる。逆に頭の半分が自然のことだと、人間関係のダメージも半減する。現代人の頭の中から、花鳥風月が消えているのは危険。」ということをおっしゃっていた。

おそらく子どもが幼いほど、自然に関心を向けたり、自然に心地よさを感じたりする感性を育てやすいのだ思う。

本書の中でも、せめて小学校低学年までに虫に触れていないと、そのあとで虫好きになる可能性は低い…と書かれていた。

自然体験の意義はたくさんあるけれど、この点こそ最も重要なポイントなのかもしれない。

人生がうまくいかないとき、花鳥風月に励まされ、力が湧いてくるようなしなやかな心。

これからの未来を生きる子どもたちがそういった心を持ち、力強く人生を歩んでくれることを願いたい。

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