はじめに
娘が生まれてから、子どもの交通事故のニュースを見るたび、胸が締め付けられるように苦しくなります。
おそらく、子育て中の親御さんなら誰もが同じ気持ちになるのでしょう。
我が子に対して、どのように交通安全教育をすればよいのか。
また、自分が加害者にならないためにどんなことに気をつければよいのか。
本書はそんな思いで手に取った一冊です。
発達特性に応じた交通安全教育
安全な道路の歩き方や、快適な交通社会を実現するための社会的スキルを歩行者に教えるには、教育を受ける人(受講者)の特性、特に発達的な特徴を、教育する人々(教育担当者)が理解する必要があります。
歩行者の発達特性に応じた交通安全教育の考え方として、たとえば、子どもに道路の横断方法を教える際には、道路の渡り方などの具体的な内容から、危険の意味といった抽象的な内容を順番に教えることが重要と指摘されています。
子どもに道路の横断方法を教えるための英国の指針
①最も安全な経路を横断前に探す
②横断前に止まる
③車が接近していないかを確認し、車の音も聴く
④車に道を譲る
⑤道路はまっすぐ横断し、走らない
安全な道路の歩き方について、娘にもまずは具体的な内容から教えていこうと思いました。
何事も失敗を重ねながら、自分で考え自分で答えを見つけてほしいところですが、交通安全のような命にかかわることは別ですよね。
たった一度の失敗も許されないわけですから。
子どもに「しつこい!」と嫌がられるくらい、何度もくり返し言い聞かせるのがちょうどいいのかもしれません。
◇
ところで、私には子ども時代、自転車に乗っていてヒヤリとした経験があります。
たしか、小学校低学年くらいのとき。
家の近所の細く長い坂道を下っていました。
前方には、信号がなく見通しの悪い交差点。
こちら側に止まれの標識がありますが、幼い私はそんなもの気にかけていません。
車が来るかもしれない…とは思いながらも、風を切って坂道を下るのが気持ちよくてブレーキをかけるのが嫌になり、そのまま交差点に突っ込みました。
交差点に入って右側を見ると、一台の車が、けっこうなスピードを出しながら接近してきていました。
あと数秒遅れていたら、その車とぶつかって吹っ飛ばされていたことでしょう。
そのことに気づいた瞬間、ものすごい恐怖で体が震えたことが今でも忘れられません。
どうしてそんな危険なことをしたのか、今では信じられませんが、当時の私は危険を予測する能力、衝動を抑える能力といったものがよほど未熟だったのでしょう。
子どもが交通社会で自分の身を守るための能力というのは、大人が想像しているよりはるかに頼りないものなのかもしれません。
運転行動の階層モデル
ハタッカらは運転行動の階層モデルに基づき安全なドライバーを作るうえで教えるべき点について、GDE(Goals for Driver Education)フレームワークを用いて整理しています。ベースとなる階層モデルでは、運転行動を4つの階層でとらえます。
第4階層「人生の目標と生活のスキル」
第3階層「運転の目的と文脈」
第2階層「交通状況への適応」
第1階層「運転操作」
上位の階層は下位の階層を制御します。たとえば、第2階層の危険予測に優れていれば、前もって対応することができるので、第1階層の運転操作能力が優れていなくても事故への遭遇を防ぐことができるでしょう。また、ゆとりをもって運転したいと思い、早めに出発すれば(第3階層)、狭い裏道を走る必要がなくなり、結果的に危険予測や対応動作が求められる機会が減少します。また、早めに出発できるかどうかは第4階層の日頃の生活スタイルが影響するでしょう。
私は、第1階層「運転操作」と第2階層「交通状況への適応」の能力については、正直あまり自信がありません。
運転操作は不器用だし、注意力や判断力も低いほうだと思います。
だからこそ、交通事故を起こさないように、日頃の体調管理や時間にゆとりをもって出発するといったことに、人一倍気をつけなければいけないと感じました。
それと、運転操作のコツや安全運転のポイントについて、今はYouTubeによい動画がたくさんあるので、ときどきそれを見て勉強しようと思いました。
よりよい運転ができるように学び続けないと、どんどん自己流の危ない運転になってしまう気がするので…。
◇
ふと思ったのですが、この運転行動の4つの階層、子どもの教育に当てはめることもできる気がします。
感情をコントロールする力、生活を管理する力など、生きる上で土台となる能力が育っていないと、部分的に優れた能力があっても、それをうまく生かしきることができないように思うのです。
近年、子どもの教育に関して、「短所は気にせず、長所を伸ばそう」というような風潮が強くなっています。
それはよい流れだと思うし、私も我が子をよく観察して得意なことを伸ばすサポートをしてあげたい。
ただ一方で、やはり人を育てるということの基本は、偏った人間ではなく、「バランスのとれた人間」「社会に適応できる人間」を目指していくことではないでしょうか。
そのために本質的に大切なことは何か…という視点を、忘れずに持ち続けていたいとあらためて思いました。
おわりに
私は、運転が好きではないし、車種にもこだわりはないし、とにかく生活のために仕方なく車に乗っています。
でも、本書を読んで、車のことでも「交通安全教育」なら興味があると気づきました。
交通安全教育は、発達心理学と密接に関わる分野のようです。
今後もいろいろと関連著書を読んで、何らかの形で、よりよい交通社会をつくることに貢献できればいいな…と思っています。
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